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仙台高等裁判所 平成元年(ラ)91号 決定 1990年1月10日

主文

原決定を取消す。

株式会社御角本社に対する売却を不許可とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

記載によると、執行裁判所が買受申出の保証の金額を四九四万六四〇〇円と定めて入札期間の開始の日等の公告をしたところ、抗告人有限会社丸真商会は保証の提供をするにあたり、右金額に四〇〇円不足する四九四万六〇〇〇円を執行裁判所の預金口座に振込んだため、開札期日に執行官は同抗告人について保証の提供があったとは認めず、その差出しにかかる入札書を開札しなかったこと、他方相手方の差出しにかかる入札書については保証金額欄の記載が欠落していたにもかかわらず、適法な買受申出があったと取扱い、相手方を最高価買受人と定めたこと、以上のとおり認められる。

思うに、抗告人有限会社丸真商会は、開札期日に所定の保証金額より四〇〇円不足する金額を執行裁判所の預金口座に振込んでいるものであるから、保証の本旨に従った提供があったとは解することができず、なお民事執行規則四八条に徴すると、入札場で金銭の提出をもって不足分の補正をすることや開札後に追完することの余地を許容すべきではないから、前示保証提供上の瑕疵は治癒される可能性がないものである。しかしながら、買受申出にあたり保証を提供させる主旨は、最高価買受人をして売却代金債務の支払を確実に履行せしめるための間接強制にとどまり、保証提供が買受申出の意思表示を構成するものではないから、たとえ保証提供に瑕疵があり且つそれが治癒される見込みがなくとも、諸般の事情を勘案して瑕疵の存在を許容し、保証が本旨に従って提供された場合に準じて取扱うことを相当とする余地もないではないと解される。そして、本件において、同抗告人は公告された保証金額四九四万六四〇〇円を、読み違えて四〇〇円不足する四九四万六〇〇〇円であると誤信した結果、同金額を執行裁判所の預金口座に振込んだものであることは、記載に徴して明らかであるところ、買受申出人が保証提供するにあたり、錯誤に基づき前示僅少金額の不足が生じた場合には、上叙の保証提供を命じていることの主旨をおおむね満足させていると解されるから、むしろ適法な保証提供があったのに準じて取扱われて、同抗告人から差出された入札書は開札に加えられるのが相当であったものである。しかるに、同抗告人の入札書を開札に加えることを許容せずに売却を実施した執行官の措置は、著しく不当であり売却手続に重大な誤りがあることに該当し、相手方に対する売却についてこれを不許可とすべきである。

よって、原決定は不当であるからこれを取消したうえ、相手方の株式会社御角本社に対する売却を不許可として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 武田平次郎 裁判官 木原幹郎)

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